ツーソンの旅

アリゾナ州ツーソンは100万人都市でフェニックス(300万人)に次ぐ都会です。しかし、田舎です。言い方は悪かったですが自然をすごく大事にしています。ここにアリゾナ大学(下の写真の中央あたり)があり、国営の病院(VA Medical and Health Center)が、アラビア風建築みたいに建っています。高い建物は一切ありません。病院も平屋です。

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学会の帰り道にRonnie Fass(ローニーと呼んでます)という友人の教授を訪ねました。結構男前で、ハリウッドスターのケーリー・グラントと雰囲気が似てます。ヒッチコック映画「北北西に進路を取れ」(1959)の主演を演じました。古いって? それじゃ「シャレード」でオードリー・ヘプバーンと共演した人といえばわかるでしょう? わからんか?

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    ローニー・ファス教授と私(彼の教授室で)                      ケーリー・グラント

まっ、それはさておき、ツーソンはまさに西部劇の世界。サボテンが茂ってます。スワロとかいう大きな十手みたいな形のやつ。ほら、銭形平次とかが使ってるやつの親玉ですよ。とても大切に保護されています。病院の敷地内にも大きなスワロがありました。100年以上前から生息しているものらしいです。どんな小さなものでも、動かすには政府の許可が要るのですって。

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ツーソンの国立病院の中。100歳以上のサボテン(スワロ)がそびえています。

西部劇といえばカウボーイですが、このあたりには、本物がまだ住んでいるそうです。たまに山から馬で疾駆してきて、勢い余って道路まではみ出して車とぶつかったりすることがあるらしいです。ジョン・ウェインならぶつかる前にタイヤを撃ち抜いていると思いますが・・・。

とにかく暑い。半端じゃない暑さです。太陽光線の槍が降ってくるみたいな。いや、針かな? そんな刺すような暑さです。私を朝迎えに来てくれた秘書さんは、駐車場に車を停めると、ドアの窓を5 mm位開けてからキーをロックしました。そうしないと窓ガラスが割れるそうです。

理屈としてはわかるけど(熱で空気が膨張してパンッ!?)、そんなに密閉度が高い高級車には見えませんでした。日本でいう魔法瓶(アイスティー入)も必需品だといって携帯していました。シーラという女性です。またー、来た? ダジャレを期待する気持ちはわかりますが、期待に答えないことを今年のモットーにしました。なに? 今までも期待はずれだったって? 言いたいこと言いますね。

ところで、ツーソンの名物はなにか知ってます? サソリの一夜干し。曇った日のあくる日のやつは買わない方がいいそうです。毒が残っている場合があって危険らしい・・・。うそですよ。確認しました。シーラも「うぇっ」みたいな顔して、「食べ物が無かった時代には、食べる人もいたかも・・・」と真面目に答えてくれました。

アメリカ人は基本的には真面目ですね。あとで、「冗談ですよ」とは言えない雰囲気になってきます。それで、悪のりして「唐揚げなら今でも食べてるでしょ?」と聞くと、いきなりインターネットを調べ始めました。即座にツーソンでサソリの唐揚げ店を調べてくれているのだと気がつきました。そのとき、「見つけないで(お願い!)」と心で祈っている私がいました。

そこまで真面目に対応せんでもええやんか。見つけられたら予約されてしまう。長い時間が経過したように思いました。実際は5分くらいでしょうか、残念そうに、手のひらを前にむけて肩をすくめながら、申し訳なさそうに首を振るあのアメリカ人独特のポーズで「I am sorry.  I could not find such a restaurant」。私はガッツポーズを作りかけたその腕を横に振って、残念そうに「Thank you.  Never mind.」一件落着です。

そのかわりに、といえば何ですが、ローニーがステーキを食べに連れて行ってくれました。24オンスのリブ・ステーキを注文しました。あとで調べてみたら、何と700グラム!アメリカ的にはribeyeというそうです。デカッ! でも頑張って2/3くらいは食べました。ジューシーで、アメリカ人が好む(多分、本当は好んでないと思うけど、脂肪が健康に悪いと思って食べる)ヒレ(ヘレ?)みたいに味気なくはないです。

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だいたい、アメリカ人は、健康お宅が多い。ローファット、ローファットとか言って、牛乳買うにもさんざん時間かけます。そのくせ、ばかでかいチョコレートケーキをデザートにペロッと食べてます。何考えているのか、よくわかりません。

お腹がいっぱいになったところで、ローニーが自宅に連れて帰ってくれました。何と敷地が1エーカー。・・・といわれても、想像が付きません。約4,000平方メートル(1,200坪)です。塀が巡らされていますが、その外側も彼の土地で、塀は動物の侵入を防ぐためのものらしいです。庭にプールまであって、豪勢な生活をしています。彼も私も同じ公務員ですが、日本の勤務医とは大違いです。

庭で年代物のテキーラを飲みながら葉巻をふかし、上を見上げると、何と満天の星。あんなてんこ盛りの星を見たことはありません。そういえば、地元のシーラが「世界最大の天体望遠鏡」と自慢していたのを思い出しました。このことを言ってたのです。この星空を守るために、なんと照明を制限しているそうです。まず、パチンコ店出店の許可は出ないでしょうね。

ニューオリンズの旅

5月のニューオリンズは、西海岸と違って湿度が高い分、蒸し暑い。しかし、年に1度の消化器病学会週間がこの地で開かれるのは、私の現役を通して(約30年)4回目です。ミシシッピー川の河口で、潤いの「水」が豊富であること、ジャズ発祥の地であり、フランス領であったことから、庶民的でありながら洗練されている街というイメージが強く、多くの人が訪れたい地なのでしょう。

映画の舞台によくなっています。「欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)」は確かカラーではなく、白黒で、若いヴィヴィアン・リーとマーロン・ブランドが主役を演じていました。画面からも蒸し暑さが伝わってきます。実際、ニューオリンズには市電が走っていて、一番古い市電はエアコンなどなく、開いた窓からひたすら外気を入れて凌いでいます。観光客が一度は乗ってみたいという雰囲気を醸し出していますが、地元の方も結構利用しているようです。

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その古い市電の頭の所ににある行き先表示を見てひっくり返りそうになりました。なんと「Desire(欲望)」と書いてあるのです。そんな終着駅はないでしょう。と思いきや、Desire通りがれっきとしてありました。ナポレオンの愛人の名前(Desiree)にちなんで、通りの名前に付けようとしたが、綴りを間違えてDesire(欲望)となってしまったという説もあります。わざとのような気もしますが。おまけに、極楽’(Elysian Fields)通りまであるのは悪のり?

で、ニューオリンズはしばしば映画の舞台になってます。その中でも私がもっとも気に入っている映画は「ベリカン文書(Pelican brief)」です。ちょうど私が最初にニューオリンズを訪れるとき、国際線の機内で見たのがこの映画でした。

娘とニューオリンズに着いてから、うろついてシーンの場面を探しました。そして見つけたのです。ここが追っ手からジュリア・ロバーツが必死で逃げたリバーウォークや、とか、彼女が駆けおりたヒルトンの螺旋階段がここや! と、まるでジュリアの(なんて親しそうでしょ)靴音が聞こえそうで興奮していたのを覚えています。娘が高校生か大学に入った頃だったので、17-8年ぐらい前です。えっ、年がバレるって? 娘がゆーてます。聞かなかったことにしといて。

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リバーウォークの中のショッピング・アーケードで、右手がミシシッピー川です。

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リバーウォークとヒルトンホテルをつなぐ階段。ジュリア・ロバーツがここを駆け下りたと思い込んでいました。

帰ってからもう一度、この映画を見てショックを受けたのは、リバーウォークで殺人があったのは確かですが、彼女は走ってなかった。また、駆けおりたのはヒルトンのリバーウォークにつながる階段ではなく、しかも「らせん」ではありませんでした。安ホテルの非常階段だったのです。なんと人の記憶っていうものが曖昧なものかよくわかりました。なに? 一緒にするなって? すいません。(今に後悔するぞ・・・)

待ちに待った晩ご飯。「ペリカン・クラブ」という郷土料理のしにせレストランです。ガンボ・スープはどこで飲んでも同じというものではありません。ここのガンボスープはスパイスが程よく効いていて、美味でした。特産というか、美味しいのはやはり牡蠣ですね。生はもちろんOK。ロックフェラーという名のチーズであぶったやつも最高。

025.JPG ガンボスープです。

ステーキは脂身がなくて相対的においしくないけれど、リブ(肋骨)ステーキはジューシーでいける。これも見た目はでかくて引くけど、骨の部分が結構あるので、実質はそれほどでもない。でも、半分食べるのが限界かも。

フレンチ・クウーターに行くと、おしゃれなレストランがいっぱいあります。ザリガニ(crawfish)のスパイシーボイルは皿に山盛り来るけれど、引かなくて大丈夫。中身は小さいので、なんぼでも食べられる。私たちの世代は、ザリガニを沼地でまず捕まえて、身を餌にカエルや魚を釣っていたので、食べる気はしなかったけれど、食べてみてよかったと思っています。でも、ワニの唐揚げは、まずくはないけどやめといた方がいいでしょう。 

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ザリガニの身を食べた後の捨てられた頭です。

ところで、この伝統ありそうなレストランに「ペリカン」という名前が象徴的につけられているので、ウェイターに聞いてみました。きっと、映画の「ペリカン文書」でニューオリンズが話題になって、それにちなんで「ペリカン」を流用したに違いないという思いで私のイメージは膨らんでいました。そうだとすれば、伝統ありそうに見えて20年も経ってない店だな。門構えでだましやがって、みたいな気持ちがなかったわけではありません。

それで、なんで「ペリカン」なのって。そうしたら、「ペリカンはここの象徴です」と。私はびっくりして「南極にしかいないんとちゃうん?」。ウェイターは目をむいて「海岸に一杯いるよ」っていうのです。「えー、マジ?」というと、「ルイジアナ州の州鳥になっているほどですよ」というわけです。

えー、なにそれ、という感じになってたら、一緒に行ってた私の後輩が「先生、それ、ひょっとしてペンギンと間違えてません?」と遠慮がちに一言。私には「ペリカン」に、氷の上をひょこひょこ歩くひょうきんな飛べない鳥のイメージしかなく、すぐに修正が効きません。「ペンギンのことやで。どこが間違えてるねん?」と言葉を発して、初めて「あっ、ペンギンとちゃうわ!」。なんと人の思い込みっていうやつは恐いものかよくわかりました。なに? 一緒にするなって? すいません。(今に後悔するぞ・・・アゲイン)

ニューオリンズは数年前に巨大ハリケーン、カトリーヌに見舞われ、惨事が起こりました。それから初めての訪問になりますが、街の様子はほぼ以前と変わらないくらいに復興していました。街にはジャズが溢れ、ポールダンス(鉄柱をくるくる回って踊るセクシーダンスで、多分なんの練習もいらない)は健在。ポール・ニューマン(シャレではありませんよ)が「ハスラー」で主演したプールバーも、多分そのままかも。私も「なにわのポール」と恐れられた時代がありました。トム・クルーズが「ハスラー2」を主演してからは、「なにわのトム」に変わりましたが。

で、惨事から回復したかのように見えたこの街にも、やはり根深い爪痕が残っていることがわかりました。たまたま利用したタクシーの運転手。陽気な若い黒人で、「ニューオリンズもかなり回復したね」と振ってみると、意外な言葉が帰ってきました。「おふくろと妹を亡くしたんだ」「家も壊れてお金を稼がないと」と言うのです。思わず絶句してしまいました。阪神淡路の大震災を思い出しました。惨事を引きずりながら頑張っている若者を見ると涙が出てきます。チップを弾んであげると、素直に喜んでくれました。

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バーボンストリート。ストリート・ミュージシャンがジャズを演奏しています。

学会には1万人以上が全国から集まってきますが、学会にもおそらく「活気をこの街に」という思いがあってのこの地での開催だったのでしょう。実際、この期間、街は学会バッグを持って歩いている人だらけでした。しかし、悪いことに沿岸で採油パイプが破損して、オイルが大量に漏れるという事故が起こってしまいました。

牡蠣は全滅といわれています。自然破壊につながる産業は「ペリカン文書」でも題材になったものです。それが現実になってしまった。せっかく立ち直ろうとしているこの街になぜ今? という思いです。「ペリカン」が「もうアカン」と鳴かないように、何らかの支援を送りたいものです。